ゴヤール財布二つ折り
null
null「ワッ!」  フェラリオは、ジョクの膝《ひざ》の上に落ち、さらに両脚の間に滑り落ちた。 「動くなっ! 静かにするんだ」  ジョクは、視線を上下左右にめぐらして、バーン機を探った。  敵は、カットグラが、森に隠れて逃げる、と考えるにちがいない。  ジョクは、そう信じた。  だから、ジョクは、落ちたところの火中にじっとしていたのだ。  ジョクは、気分を静めようと必死だった。太腿《ふともも》の間で、モソモソするフェラリオに、気を取られることはなかった。  今は、闘争心を殺すのである。もっとはっきりいえぱ、炎に焼かれながらも、自分の気配を消そうとしたのだ。  それは、『痴呆《ちほう》』状態とも、『無我』『自己滅却』の状態とも近い。  ジョクのそんな気配を感じたのか、フェラリオも、フッと身じろぎをしたきり、動かなくなった。  ジョクには、彼女のかすかな体温も、消えたように感じられた。  同化したのかも知れない。 「…………」  熱に耐えられるのも、酸素欠乏に陥るのも時間の問題となったが、ジョクは、そんな不安さえ忘れた。  黒煙が天を覆い、地には熱気が充満した。  瞳《ひとみ》に映るのは、黒煙や炎だけで、それを知覚というレベルにまで上げない。映すだけだ。 [#改ページ]