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null ……だが、いざ追走を開始してみて、指揮車の鎌田の胸の中には、不吉な予感がうずき始めている。  予感というより、カンのようなものだったかも知れない。  虹の童子。ふざけた名の誘拐団だが、並の知能の連中でないことは、これまでの一々当局の意表に出たやり口でわかっている。そういう連中がまんまとこの罠《わな》にはまるだろうか。これが最善の作戦という自信はあるが、最善ということは、当然ある程度はかれらにも察しがつくことでもあるまいか。やつらのことだ。またぞろ、途方もない奇策を考え出して、この作戦の一切が画餠《がべい》に帰してしまうおそれがないとも言えないのではないか……。 「ばかな」思わず口走った。  そんな奇策があるぐらいなら、こっちでもだれかが考えついている。だれからもそうした意見が出なかった、ということは奇策なんてない証拠だ。おれらしくもない弱気だ。  強いて自分を叱《しか》って、車の時計へ目を落した。  あとから考えると意地の悪い偶然の一致であった。時計の針は七時半を少し回ったところだった。  七時半。  放送会館まえは、いつもの静かさに戻っている。  テレビカメラもライトも、二人の作業服とかれらの板もとうに引っ込んでいたし、囮《おとり》車も運転手がニヤニヤしながら会館わきの駐車場へ入れてしまったので、一杯くわされたのがわかった群集や野次馬カーもぼやいたり、苦笑いしたりで退散して、あとは時たまタレントや局員たちが出入りするだけの平素の風景である。  半を数分すぎたとき、この風景の中にちょっとした動きが起こった。駐車場へ通じる裏口から、数人の男たちが若い一人の女性を中に囲んで、人目を忍ぶようにこっそりと出てくると、急いでさっきしまったばかりの囮車に乗り込んだのだ。車はすぐに発車した。  カメラマンたちがまだ残っていて、男たちを見たら、もう一度おやと思ったにちがいない。その中に東と中沢の顔が混っていたからだ。  だが、そのとき表を通っていた通行人には駐車場の奥は見えなかったし、かりに見えたとしてもかれらの顔を知らない一般市民だった。車が出て来る音で振返った目に映ったのは、助手席のサングラスをかけた若い女性と、運転手である。運転手の顔はもうニヤついてはいなかった。 「女連れのロケか。あの女性タレント、だれだったかいな」  通行人は軽い好奇心を感じながら通りすぎて行った。これもテレビ局のまえではよく見る風景の一つだった。  大きなプラカードを掲げた放送車は、市の繁華街を走り抜けて、紀ノ川の手まえで右へ折れて、国道二四号線へ入って行く。さっきの中継車とは正反対の方角である。  無数の市民たちがその車を見た。中に最初に茶房から飛び出して、「あれは囮《おとり》やで」とどなった男もいた。彼は中之島の商店主で、あれから家に戻って間もなく、そとにいた家人から「父さん。テレビの車が来よるで」と教えられたのである。